麦芽の味わいをストレートに楽しめるビール『虹之麦酒』
『虹之麦酒(にじのビール)』は、豊かな自然と清らかな水に恵まれた三原市西野で、私が丹精込めて栽培した二条大麦ともち麦の2種類を使用しています。
もち麦は瀬戸内で昔から作付けされてきた在来種で、まさに地ビールの原料にふさわしいものです。
さらにホップも自家栽培しており、瀬戸内らしいシトラス系の香りがする品種『チヌーク』を育てています。
『虹之麦酒』は副材料を添加して味や香りを表現するビールではありません。
化成肥料を使っていない豊かな麦、少量だからこそ細やかな手入れができる麦芽の味わいをストレートに楽しめるエールビールです。
故郷の原料を使ってこそ地酒
原料は100%自農場で栽培
今人気のクラフトビールの原料は、国内の大手ビール会社から購入したものや輸入物の麦芽を利用しているのが主流です。
しかし「故郷の原料を使ってこそ地酒といえるのではないか」と考え、秦農場では2011年からビール麦、2016年からホップの栽培に取り組みました。現在は100%同農場の原料でビールを委託醸造しています。
麦畑をとりまく生き物を大切にしたいという思いから、草木堆肥とヤギの厩肥、鶏糞を肥料にして、殺虫剤や殺菌剤は使っておりません(除草剤は使用しています)。
イノシシなど大きな被害にあうこともありますが、動物との本気の攻防を楽しんでいます。
収穫したビール麦
国産麦のおいしさに感動し、麦作りを始めました
20歳のころ(今から約40年前)に訪れた群馬県にて、国産麦で作られた「麦まんじゅう」を食べ、国産麦のおいしさに感動しました。
当時、三原で麦を栽培している農家はいませんでしたが、「自分も麦を作ってみたい!」との思いから、亡き養父母より受け継いだ農地に麦を植えたのが始まりです。
『秦農場』を立ち上げる前は、『環境ネットワーク三原』という市民グループで耕作放棄地対策のために麦を作っていました。
「小麦だけでなくビールを作ってみよう」という話が持ち上がり模索していたところ、埼玉県鶴ヶ島市から製粉機の視察に来た方が、ビール製造メーカー『新潟麦酒株式会社』を紹介してくださいました。そこから三原の地ビールづくりが始まりました。
ビール用の麦を植えることで一気に耕作面積が増えたほか、里山の生き物が育つことを学びました。実際、麦が育つことでカヤネズミが増え、そのカヤネズミを餌にする生き物(マムシなど)も増えました。荒れ地が豊かな里山に戻っていくことを実感しています。
秦農場の畑。さまざまな生物と共生しています
麦の栽培だけでなく麦芽作りまで行っています
以前は収穫した麦を、醸造を依頼している『新潟麦酒』に出荷するだけでしたが、2020年から収穫した麦はすべて秦農場側で麦芽に加工して出荷することになりました。
6月に収穫した麦を11月まで寝かせます。11月まで寝かせた麦を水に浸すと、2日で芽が出ます。それが麦芽です。
芽が出すぎてもいけないので、水から上げるタイミングが難しいです。その後、麦芽を乾燥させる工程も、水分量が多いとカビが生えてしまうため細心の注意が必要です。最初は失敗ばかりで、収穫した麦を無駄にしたこともありました。
当初は麦芽の作り方など分からず、手探りでした。
友人からシイタケ乾燥機を譲り受け、さらに地ビール醸造仲間のつながりで、栃木県の『ろまんちっく村』の方から麦芽づくりを教わり、ようやく品質が安定した麦芽を作れるようになりました。
もち麦も麦芽に加工することで、品質のいいビールができることが判明しました。
麦を麦芽に加工して出荷します
自然が教えてくれるものを大切に
作るより買ったほうが安い、そんな理由で離農し耕作放棄地が増えていく中で、自分が作ったものへの自信と誇りが取り戻せたらという思いがあります。
農作物を作ることは自然と深くかかわりあうということ。地域の気象を知り地理自然を知ることで、大きな災いがあったときにどう対処していくべきか智恵が出るものだとも考えています。
秦農場オーナーの秦秀治さん